月曜日の夕立ちはつめたい

走り出した気持ちが家出して戻ってこないときに書く

記事翻訳:my"BADASS"muse イ・ヨンジ

 最近、韓国での性的少数者の立場の危うさを知らせるニュースが、日本のメディアでも日本語で記事化されるようになってきた。「最近こういうの多いよねえ」ではない。残念ながらずっと起きていたが、単純に日本語になっていなかっただけだ。

 クィアフェスでセクマイへ祝福を授けたとして停職処分になった牧師の控訴が全然進まなかったり、トランスジェンダーの元軍人女性が極端な選択をしてしまったことだったり。教育庁が学生を守るための『学生人権総合計画』を改定するにあたって《性的少数者の学生を保護する》って文言を入れたら、保守団体から反対に遭ったりもしている。曰く同性愛助長教育なんだって。呆れて物も言えんわ。
 2010年の『美しき人生』というドラマにゲイカップルがいたけれど(断っておくがベッドシーンはない、キスシーンすらない)、そのときに保守団体から起きた反発と、11年後の今回の抗議の文言にほぼ違いがなくて絶望する。本国のセクマイやアライたちは、どれだけ打ちのめされているのだろうか。最近だと『それでも僕らは走り続ける』にもゲイのキャラがいたけれど、正直ヘテロの恋愛の装飾に過ぎなかった。これは個人的な推測に過ぎないけれど、韓国では他のセクマイよりも輪をかけて《ゲイが幸せになること》に対し、過剰な嫌悪感を持つ人が多いように思える。私も実際その『普遍的な』ホモフォビアにぶつかったこともあるし。これはそのうち記事にしたい。
 セクマイのキャラが幸せになる以前に「ゲイもいるんだよ、普通に生きてるんだよ」というのを描かねばならない段階というのは、とても苦しい。
 ハングルで検索すればYouTubeには自主製作のクィア映画が沢山あるし、WEBドラマ媒体に留まっているがBL括りのドラマも増えてきた。それでもテレビ=不特定多数の人の目に触れやすい媒体では、まだまだ《表現が控えられる》状態だ。『それでも僕らは走り続ける』は、他のセクシュアリティのセクマイが出てきたりするし、アウティングの醜悪さなんかも描いてるけどね。
 毎日のようにセクマイの苦しい社会的立場がゆえ、痛ましい事態となってしまったニュースが海の向こうからも聞こえてくる。

 韓国は儒教の教えに基づいた社会通念があり、人口の約30%がクリスチャンだと言われている。日本では野党にはセクマイの権利向上に尽力している党もあるし、結婚こそできないがパートナーシップと呼ばれるシビル・ユニオン的な制度を導入する市町村もぐんと増えた。しかし韓国では、与野党ともにおおむねセクマイには否定的な立場を示しており、パートナーシップを導入している自治体はいまだゼロ。セクマイの人権について発言するのはきまった議員だけだ。
 常日頃、韓国からやってくる優れたフェミニズム文学や世界で戦える映画を観ていると、ここだけぽっかりと置き去られているかのように感じる。私の韓国の友人・ミンジとはよくこのような話をするのだが、彼女は決まって「私はアライだと言えるようになったけれど、言えるようになるまで何年もかかった」と言う。《セクマイであるとカムアウトすること》はもちろん、《アライであることを公言する》ことすら、なんらかの社会的制裁を受ける可能性があるからだ。

 暗いニュースばかりの日常からは、目を逸らしたくなるものだ。ただその逸らした事実を黙ったまま見過ごすのも、よくないことだともわかっている。加担するのと同じだもの。だから今回は、そんな韓国で目を逸らさずに生きている若者の記事を紹介したい。

 이영지(イ・ヨンジ)って、ご存じだろうか。
 K-HIPHOPを嗜む方々には有名だろう。彼女を形容する言葉はさまざまだ。弱冠19歳のフィメールラッパー、『高等ラッパー』初の女性優勝者、スマホケース作って1億ウォン寄付した人寝坊してセンター試験を受けられなかった人、などなど。

Dark Room

Dark Room

 その飾らない言動と、確かな技術、そして親しみやすく面白い人柄。今Z世代を中心に人気の彼女だが、今年の1月にハフポストコリアにこんな記事が載っていた。もう随分前の記事だけれど、前から訳してみたかったので簡単にやってみた。よかったら読んでほしい。

ラッパーのイ・ヨンジが「同性の友達に片思いしている」という悩みに、こう答えた

 ――「あらゆる形の愛が尊重される社会を作るために、(まず)私から努力します」

「皆さんを痛ませることについて書いてください」。
 韓国ヒップホップ界トップ中のトップ、ヒップホップ神の宝であり、大韓民国で最も有名な『独島エビ』(※)ラッパー、イ・ヨンジがインスタグラムを通じてこのように訊ねた。するとファンたちは自分の中の不安や憂鬱、隠していた秘密までも彼女に打ち明けた。
 ちょうど成人した彼女は自己啓発書を読んでも、TEDの講義を聞いても得ることができなかった返答で、彼らを癒した。とても可愛い猫の写真と共に!

(※)のくだりについて。去年の5月に彼女が音源を出したとき、《赤頬思春期×EXOベッキョン》&《IU×BTSシュガ》というトンデモBIGコラボ2組とリリースがかち合ってしまった。ヨンジがその2組をクジラに、自分を「私みたいな独島エビなんか……」と例えたやけっぱちインスタライブが話題に。

フォロワー:
自分で明るい人だと固く信じていて、憂鬱さを憂鬱だと思わないこと
ヨンジ:
あなたも同じように、両面性を持っている普通の人間だという事実を認知してください。ファイティン、素晴らしい人

フォロワー:
否定的なエナジーばかりみなぎっている人間
ヨンジ:
甘いクリームパンの中のレーズン一粒のせいで、クリームの味を味わえないことはとても残念です。あなたは世界で一番あたたかいクリームパンですよ

フォロワー:
感情の浪費
ヨンジ:
繊細な人。本人が持つ繊細さに、無理に苦しまず飲み込んで、明日訪れるもっと多くの小さな幸運に焦点を置いて平穏になりますように

フォロワー:
同性の友達に片思いすること
ヨンジ:
片思いはいつの世もズキズキすることなのですね……もしもあなたの愛をさらに痛ませるのが片思いの相手ではなく、社会の視線ならば、あらゆる形の愛が尊重される社会を作るために、私から努力します

 イ・ヨンジ、彼女は本当に人生一度目で合っているのだろうか。毎日超えられぬ高い障壁と向き合う気分で生きてゆくミレニアル世代に、希望を伝えるために転生したメシアなのではないか。
 とっくに世の中に妥協してしまい、老けてくたびれたエディターは今週末、イ・ヨンジの『妥協』を聞きながら、ラーメンを煮て鮮度を上げる。ラーメンを入れ、待ちながら聞くのにこの上なく良い音楽だ。

元記事:
www.huffingtonpost.kr


 韓国の若い世代には、こうしてアライであることを明言してくれるセレブリティも増えてきた。ちょっとずつ前に進んでいるのは日本も韓国も同じなのだと、心強く思う。
 それはそうとSpotifyとカカオが喧嘩したせいで、今はSpotify上からヨンジの曲はほとんどリムーブされている。特にヒップホップ界隈はダメージが大きいので秒で仲直りしてくれ。ウチらにヨンジを返せ。頼むわ。

 最後に私が大好きなヨンジの動画。外出制限時に出歩く人たちに向けて。

「出るなっつうんだから出るな!(みんなで)飯食うな! 集まるな! デリバリーだけ注文してトッポギだけ食ってろ!」。