月曜日の夕立ちはつめたい

走り出した気持ちが家出して戻ってこないときに書く

記事翻訳:私たちは間違った存在ではありません+α

 韓国にハンギョレという左派の日刊新聞がある。日本語版のサイトもある、主要紙のうちの一紙だ。
 今月5日に掲載された記事にひとつ気になるものがあり、日本語訳はされなさそうなので思い切って訳してみた。元々ハンギョレは日本語サイトができる以前、有志がブログに日本語に訳した記事を掲載していたらしい。もしも問題があるようであればすぐに下げます。記者はシン・ソユン記者。

 記事は中学2年生のとある性的マイノリティが、ハンギョレ紙にメールをしたことからはじまる。思春期のマイノリティの子どもたちを取り巻く環境の劣悪さは、正直日本となんら変わりがない。
 もしもこの記事を読んでいる中に、子どもと接する教育職に従事している人がいたら、ここで読むのをやめないでほしい。もしもこの記事を読んでいる中に、この『韓国の平凡な学生』と同じ性的マイノリティの未成年や、未成年だった人がいたとしたら、やっぱりここで読むのをやめないでほしい。

私たちは間違った存在ではありません

「こんにちは。平凡な大韓民国の学生です。もっと私の紹介をするならば、私は大韓民国の平凡な性的マイノリティ、中学2年生(まもなく3年生になる)の学生です」。先月3日、ある読者からメールが送られてきました。<ハンギョレS>1月1日付の『最近の世の中にも差別があるかですって? 私の職場、学校、日常にあります』(イ・ジョンゴル差別禁止法制定連帯共同代表インタビュー)記事を見て、すぐに自分の話だと思ったそうです。
 自身の心が多くの人に届けば「世の中が少し変わるかも知れないという希望を抱いてメールしてみました」とし「助けてもらえますか?」と訊ねてきた。勇気を出してメールを送ってきたチョン・ジホ学生(仮名)に二度に渡って書面・電話インタビューでお会いしました。その声を整理して盛り込みます。

 私は中学2年から中学3年に進級する、2日に一回解かねばならない数学課題100問に苦しむ平凡な学生です。中学1年のときに性的アイデンティティを自認したあと、一日の中で一番長く留まる空間である学校では、性的マイノリティへの数多くの差別が横行していることを感じます。
 2年の初学級会を目前に、初めて学校の校則を最初から最後まで読みました。ところが驚くべきことに、校則には性的少数者を念頭に置いた内容が、たったのひとつもなかったのです。だから野心的に*1会議案件を提出しました。校則に書かれている『両性平等』という言葉を『性平等』に変えましょう。そして女子学生たちがパンツの制服を選択できるように、男子学生にもスカートの制服を選択する自由を与えましょう。

 男子学生のスカートの制服案件に対しては、甲論乙駁*2さかんになりました。生徒の何人かは女性・男性ではない他の性的アイデンティティを持った生徒が不便を感じるかもしれないので、賛成すると言いました。ところが多くの生徒が校則が変わっても男子学生はスカートを履かないと言い切って、『社会的合意』が必要な内容だと反対しました。

差別が飛び交う学校

 私は2学期に直接クラス副会長になって、この案件を持って全校会議である大討論会に出ました。依然として意見が割れ、教頭先生へ上がった案件は次のように返答がありました。「いけない、社会的合意が必要な内容だ」と。私は教頭先生のご意見に対する反対意見を盛り込んだ手紙を書いて、校長先生、教頭先生、そして各学年の部長先生に伝達しました。そしてこの内容は現在学生会の正式案件として残っていますが、新学期にもう一度討論に回される予定です。

 その他にも、学校には数多くの差別が存在します。私は人権教育・性平等教育と聞くとき、性的マイノリティに対する言及がまったくない事実に心が苦々しいです。人々は『ゲイ』、『レズビアン』、『トジェン(トランスジェンダー)』などの言葉を誰かを卑下したりからかうときに、悪口のように使います。生徒がこのような言葉を日常的に言おうと、先生方はとりたてて制止はしないです。

 学校で性教育をする際、多様な性的アイデンティティについても説明したらいいですね。性的マイノリティの人々が自身の性的アイデンティティを探る際、大部分はインターネットにある情報を頼りにします。正しい内容もありますが、価値判断が難しい情報もあるじゃないですか。学校で正式に説明してくれたら、自身の性的アイデンティティに混乱した子どもたちが「私も間違った存在ではないのだな」と考えるようになるんじゃないでしょうか。
 私たちは『存在する存在』じゃないですか。存在する彼らの、当たり前の権利になぜ社会的合意が必要なのか、私は実はよくわかりません。私たちは傷つき、(いわゆる『普通の人』と呼ばれる人と)まったく変わりなく、ありきたりな日常を生きていく人なのに、なぜ差別を自制してくれと言わねばならないのか、わかりません。

 時々私は間違った者ではないのに、むやみやたらに心が縮こまるときがあります。1年のとき、私の性的アイデンティティを探りながらも気になることが多く、たくさんの資料をインターネットで探してみました。ある日母がパソコンを使うことがあり、私のノートパソコンを借りていきました。その夜母が「ちょっと深刻な話がしたいんだけど、明日話そう」と言うので「バレたかな」と、すごく震え、怖かったです。余談ですが、次の日母が持ち出した話は、英語の塾をどこに変えるのかについてでした。
 自分自身を隠すようになると、ときどき両親に気まずい気持ちがします。嘘をつけない性格なので、両親に話したいと考えることも本当にしきりにありますが、正直私がカミングアウトをすれば、ふたりは嫌悪したり反対したりはしないでしょうが、だからと言ってすべての心を尽くして支持してくれることもないでしょう。

 それでも心を開いて気楽に話せる友達がいるのがどれだけ幸せなのか、わからないです。学校は私には安全なフェンスではないですが、それでも私をそのまま受け入れてくれる友達がいるのです。学校と塾で親しい友達10人あまりに、私の性的アイデンティティを告げました。話す前はとても震えました。それとなく話を持ち出したときは肯定的だったけれど、実際にその当事者が私だったら拒否されるかと思って。女友達6・7人、男友達ふたりが私の性的アイデンティティを知っています。そのうちのひとりは本人も自身の性的アイデンティティが判断がつかないと、悩みを打ち明けてくれたりもしました。

 性的マイノリティの同じ年頃の人々が集まっているオープンチャットに入ったことがあります。試験期間中で勉強しなければならなかったのでそのチャットはやめましたが、そのとき参加者を見るとカミングアウトをしてから友達や家族に拒否され、告白が家庭内暴力に繋がり、自傷をしたり家出をしたりする人もいました。私も周りに私の心を深く理解している友人がいますが、学校では私の性的アイデンティティが明らかになって、いじめに遭うようになるかもしれないという恐ろしさがあります。

日常を日常らしく享受する権利

 私は間違った存在でも、他の人とは別の存在でもない、平凡な学生です。学校へ行って、家に寄って宿題をし、ご飯を食べ、塾に行ってから家に帰り、宿題をしてから遊んで寝るのが日常です。インスタグラムで『コンスタグラム*3』アカウントを運営し、学生として一生懸命生きる様子を他の人に見せびらかしたりもします。一日に短くて2~3時間、長くて5時間もかかる塾の宿題で悩んでいて、この間習いはじめたギター演奏はとても面白い、そんな平凡な青少年です。人権派弁護士になって国会に進出したのち、大統領になって私と同じ性的マイノリティのための政策を施行したい遠大な夢がある学生でもあります。

 差別禁止法が制定されたら、このような私の日常をよりもっと日常らしく享受できるのではと期待があります。人々が差別を差別だと知らず、差別的な言葉を使って行動することが少なくなれば、よりもっと安全な気持ちで生きてゆけるのではないでしょうか。『私たち』の存在を国で認めて保護してくれる事実だけでも、マイノリティに対する否定的な認識が変わるだろうと考えています。自分の性的アイデンティティが暴かれる心配をしなくてもよい人生、平等で平和な人生、大韓民国の平凡な青少年である私がこれを望むのは、ありえない夢ではないでしょう?

元記事:
www.hani.co.kr


ここから先は別に読まなくてもいいよ

 この記事はNAVERのニュースタブで見つけたのだが、正直言及もしたくないようなおぞましいコメントがいくつもつけられていた。そして「ヤフコメみたいなものだ」と割り切って掲載元のハンギョレのサイトを見に行ったところ、そっちにもおぞましいコメントがついていた。中学2年生相手に悪質なコメント*4を尽くす差別主義者たちがそこにいた。
 ホモフォビアの根強さゆえに、韓国では差別禁止法の制定がもう十何年と進んでいない。政教分離を謳っているくせに、実際は政治の奥深くにキリスト教の概念が定着しているからだ。同性愛をはじめとしたクィアに対し否定的なクリスチャンたちは、信仰を理由にクィアやそれに連帯する者を糾弾する。そんな宗教右派たちの反対運動=ド直球の差別に対し、政治家はなにも言わなかったり茶化したり、ときには支持したりと、多かれ少なかれ肯定の意思を見せている者も多い。

 そして韓国は大変だなあ、ではない。日本にだって差別禁止法はない。国連から何度も注意を受けているが、一向に制定する気配はない。イ・ランのように「今すぐ差別禁止法を制定しろ」と声を上げてくれる著名人もいない。深く理解しているわけでもない。外側にいて安全な人たちは、クィアをはじめマイノリティを差別すると『面倒くさい』ので、とりたてて触ろうとしないだけなのだ。
 マジョリティである外側の人たちに恩恵のない(と思われている)ものに対して、この国は腰が重い。「めんどくせーなー」と言っていたら、勝手に収まると思っている。あと見えないように振る舞うのも上手い。いつまでいないことにされ続けるのだろう。マイノリティだけが大きな声を上げ続けても、マジョリティのふとした声にかき消される。当然だ、頭数が違うんだもん。

 リンク元の記事についていたクソコメントをちょっと訳すると「自分の子どもがクィアに興味持ってなったらどうするんだ」的な、あーハイハイ聞き飽きたわーというものだ。実際はもっとおぞましいけど。
 最近SNSでもクィアの子どもに対して「性的アイデンティティを自認するには幼すぎる」と言ったり「決めつけるには早い」といった言論が目につくことがあるが、当然だがその本人が一番自分の内面をわかっている。むしろその言論を借りると「決めつけるには早い」なんて、他人が決めつけるのはおかしくないか?
 私がクィアについて自主的に勉強しはじめたのも、この勇気ある青少年と同じ中学2年の頃だった。きっかけこそ定かではないが、恋愛的な意味で男に興味がなかったので「もしかして私って女が好きなのかな」と思ったのは確かだ。でも結局クィアのことについてざっくりとした知識はついたものの、自分の正体はわからずじまいだった。自分が恋愛ができない・恋愛をしないセクシャリティ『アロマンティック』であると気がついたのは、20代半ばを過ぎた頃だ。
 自分にだってわかっていないこともある。逆に言えばわかることだってあるだろう。そもそもセクシャリティは流動的であったっていい。人の性的アイデンティティが自分の知っているものと変わっていたからと言って、そこに落胆や裏切られたという感情を持ち合わせるべきではない。他人がクィアとしての在り方を押しつけるのは違う。

 少し前にれいなとりゅうが*5が喧嘩をした。おそらく『クィアであろう』りゅうがが、いつまで経っても自身のセクシャリティを打ち明けてくれないと、れいなが気を揉んだのだった。
 ヘテロのれいなが「こんなにも私たちは理解を示しとるんに、なんで言ってくれんのやろう?」などと言い出したので、日々ヘテロの『当たり前』煮え湯を飲まされているクィアの私は、思わず「うわ、押しつけがまし……てゆか思い上がり過ぎやろ、やべえよ」などと言葉を選ばなかった結果、そこでも若干喧嘩になった。この件は前にツイートしたことがあり、ツイッターにはかっこいいことしか書かなかったが、私は我慢できるほどできた人間ではない。
 この記事のチョン・ジホさんのように、クィアであったとしても誰にそれを明かすかというのは、当然だがその本人が選択することだ。私やれいなに対して言わないという選択をするのもりゅうがの勝手だし、自由だし、権利なんである。むしろ「言え」と強制して無理やり聞き出すのは絶対にしてはいけないことだ。私たちがやっていいのはせいぜいお膳立てまでで、そこでその膳に手をつけるかどうかはりゅうがの裁量。
 私たちやってそうやん。秘密を誰に話すか、話さんかは私らの自由やん。絶対言わんなんとか、そんなんないやん。やから教えてくれるまで私たちは黙って、態度でただあの子に「味方やよ」ってことを示し続けるしかないんや。私はれいなにそう言って、珍しくれいなは大泣きしたのだった。
 りゅうががどんな考えで私たちにセクシャリティを黙ったままなのか、私たちにはわからない。わざと言葉を飲み込んでいるのか、本人にも定義できていないのか、そもそも本当にクィアなのか、それすらわからない。でもそれは私たちが『わからねばならないこと』ではなく『いつか教えてもらえたら喜ぶべきこと』でしかない。

 チョン・ジホさん、素晴らしい人だ。記事の中に書かれたジホさんの行動は、そう簡単にできることではない。ここまで詳細では仮名の意味を成さないのではないだろうかと、思わずジホさんの実生活を心配してしまう。ツイッターでも韓国の性的マイノリティについての記事をたまに流すけれど、ホモフォビアは人を滅ぼすから。
 私もネットで知識を得た青少年だったので、そこには自分が何者であるか示してくれる救いのようなものと、目に手も当てられないようなヘイトスピーチが混在していることを知っている。ジホさんの将来の夢を見ていると、きっと意思の固い人なのだということ、そして柔らかな心の持ち主なのだろなと思う。ジホさんの世界に不必要な言葉が降り注がぬよう、それに立ち向かう必要がないよう、私たちは世界を変えていかなければならないと改めて思った。

 酸素の薄い場所に慣れるのは、もうやめにしよう。チョン・ジホさん、あなたが大統領になる日を私も夢見て、海の向こうから連帯します。


対話

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  • イ・ラン
  • フォーク
  • ¥153

*1:韓国語の야심적は熱心だとか積極的みたいなニュアンスが強いよね

*2:互いにあれこれ主張して議論がまとまらないこと

*3:勉強・コンブ・공부+instagram

*4:アクプル・악플

*5:私の付き合ってないけどパートナーの女性と、その子ども。元気だよ